2025.12.17
ケモカインやサイトカインの濃度勾配は、個体の発生過程や免疫細胞の走化性などに関連しています。
この勾配をin vitroで再現しようとする場合、マイクロ流体デバイスの利用やタンパク質の繰り返し添加などの方法が用いられてきましたが、どちらもバースト放出やタンパクの急激な濃度変化などの問題がありました。

PODSは安定したポリヘドリンとその中に封入された生理活性タンパク質からなるタンパク質共結晶です。結晶は内部タンパク質を急速な分解から保護しつつ、内因性プロテアーゼが結晶格子を徐々に分解することで、数日から数週間かけて内部タンパク質を放出します。
PODSは非常に安定性が高く、培養容器表面に付着させたり、ゲルなどの生体材料に埋め込んだりできるため、PODS結晶を特定の位置に付着させると、拡散とタンパク質分解による放出により濃度勾配を作成できます。
このアプローチの技術的な利点は以下のとおりです。
・勾配生成の簡便さ:PODSを特定の領域に分注するだけ
・時間的安定性:数日または数週間にわたり勾配が持続
・形状カスタマイズ:容器表面へパターン化や生体材料に組み込みで、勾配形状を自由に作成
・ばらつき低減:持続放出により繰り返し投与の濃度変化を抑制

この技術を利用することで、下記のような分野で活用が期待できます。
・細胞遊走と走化性研究:走化性因子のPODS勾配に曝露された免疫細胞は、長期間にわたって追跡することができ、一過性の可溶性因子を用いた場合よりも再現性の高いデータが得られます。
・神経生物学と軸索誘導:NGFやBDNFなどの神経栄養因子の勾配は、神経細胞の経路探索と分化において重要な手がかりとなります。神経発達や損傷修復の研究において、簡便かつ生理学的に適切なモデルとなっています。
・発生生物学と組織パターン形成:多くの発生過程は、細胞運命決定を指示するモルフォゲン勾配に依存しています。2Dおよび3D培養システムにおいて複雑な勾配構造を構築することができ、パターン形成、幹細胞分化、形態形成の研究を容易に行うことができます。
・生体材料とオルガノイド培養:オルガノイドシステムおよび3D生体材料において、ケモカインおよび成長因子の空間的に制御された送達は、生体内微小環境を再現するために不可欠です。PODS結晶をスキャフォールドまたはハイドロゲル内に埋め込むことで、構造体全体にわたって徐放勾配を形成することができ、生理学的妥当性と実験の一貫性が向上します。
このアプリケーションにご興味をお持ちの方は、下記リンクをご参照ください。
(英文:Niche Engineering: Chemokine Gradients Using PODS)
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